デーニッシュモダンデザインの歴史/北欧デザインの黎明


 「より使いやすく、より美しい日用品を!」これは20世紀はじめにデンマークやスェーデンなど北欧諸国で起きたデザイン運動のスローガンです。

 19世紀、西ヨーロッパから遅れをとっていた北欧、その中の小国デンマークではスカンジナビア随一の学識者と言われ、当時の社会に大きな知的影響を及ぼしていた牧師、ニコライ・フレデリク・セヴェリン・グルンドヴィにより、大々的な啓蒙活動が行われていました。
 彼は成人教育の重要性を社会に訴え、やがて国民高等学校が設立されて、デンマーク国民ひとりひとりが自我に目覚め、自信をつけ、より良き勤勉な市民になる事を目指す教育がなされました。

 そんな教育が蓄積されていく中、20世紀初めに彼ら独自のデザイン運動が開花します。
 当時西ヨーロッパでは、ヴァルダー・グロピウスのバウハウスや、ル・コルビジェなどによって唱えられた機能主義が大きな流れになっていました。
 1920年代、デンマークの若きデザイナー達はバウハウス派の人々とは同じ道を進まず、理念としての機能主義よりも、より現実的な立場をとり、理論を現実的な社会に結びつけようとしました。
 その中でも近代照明の父とも言われるPHランプで有名なポール・ヘニングセンを中心とする社会的意識の強い建築家の集団は、「評論」という雑誌を発行し、建築や日用品の厳しい検証を行いました。人々を取り巻く日常の物が、家庭生活の質に重大な影響を与えていることを深刻に考え、建築家やデザイナーの社会的責任の重さと道徳的義務を認識させようとしました。機能(使い勝手)と美しさ(美的要素)そして社会性(生活)をデザインとして関連付けようとしたのです。

「古典には優れたモダンが隠れている!」コーア・クリント

 さて家具におきましては、1924年、デンマーク王立芸術アカデミーに家具科が創設され、その初代教授には、グルンドヴィー教会の設計で知られる建築家、P.V.イェンセン・クリントを父に持つ、コーア・クリントが就任しました。彼もまた建築家であり、彼の目指した教育がデンマーク近代家具デザインへの道を開きます。

 彼は学生達に、優れた様式家具の実測から、その家具の背景にある人間の寸法や動作、家具製作の技術や構造、そして機能などを理解することを求めました。

 国内外を問わず人間の生活を取り巻く様々な物の寸法を測定することで、家具に求められる寸法の標準化、さらに人間の体や動作に必要な寸法を測定し、人間側からの条件を家具の設計の中に持ち込むことを学ばせようとしました。

 まだ人間工学という言葉すら存在しない当時に、このクリントの方法論に学んだデザイナー達は、やがて近代デザイン界をリードし、1930年頃からついにデーニッシュ・モダンデザインとして約30年もの間世界をリードし続けます。

 これがデーニシュデザイン・ゴールデンエイジと呼ばれ、半世紀も前に発表された家具の多くが現在でも生産され続け、多くの人々に実生活の中で、使いやすく美しい生活の為の道具として愛用されています。

 湖と森の国、北欧に育った文化は、北極点をこえて私達日本人にも多くの事を語りかけます。その美意識や価値観には、共感できる部分がたくさんあります。デーニッシュデザインに触れた時、私達が忘れかけていたなにかを取り戻せる気がしませんか?


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